本能というのは、学習の結果ではなく、生まれつき持っている行動のことですね。サケが産卵のために川を上るのも、クモがみごとな巣をつくるのも本能による行動といえます。
さて、人の場合はどうでしょう。
熱いものにさわったときなど、思わず手を引っこめてしまいます。これは脳で考えた行動ではなく、単純で反射的な行動なので本能によるものとはいいません。
ほかの人があくびをするのを見ていて、思わず自分もあくびをしてしまうことがあります。あくびには、酸素をたくさん取り入れたり、きんちょうをほぐすといったはたらきがあります。そのあくびがうつる原因として、まわりの人の表情をまねすることで、その人に「自分も同じ気持ちですよ」というメッセージを送り、人間関係をよくしようとする本能があるためと考えられています。
あくびがうつるという行動はチンパンジーでも観察されていますが、イヌの場合は、あくびをしても人のようにうつるということはないようです。
そのイヌは1万年以上前に、オオカミから家畜になったと考えられています。初めはえさを求めて人の近くをすみかにしていたのが、やがて人を仲間と考え、いっしょに生活するようになったようです。
オオカミには群れをつくるという本能があり、リーダーがいて上下の関係もあります。ともに生活するようになったオオカミは、人とオオカミという家族の群れの中で、いったん人をリーダーと認めると、本能から人にしたがうようになり、やがて狩りを手伝うようになったのでしょう。
イヌを散歩させるときにぐいぐいと先頭にたって自分の好きな方向に進もうとする場合は、自分が家族という群れの中のリーダーであると考えているかもしれません。
その場合、自分の群れを守るつもりで他のイヌを攻撃したり、上下関係を確認するために飼い主にさからったりすることがあります。順位をつけるという本能が、飼いイヌになっても残っているわけですね。そのため、イヌの順位を家族の中で一番下になるように学習させることで、イヌを精神的に落ち着かせることができるわけです。
それ以外にも飼いイヌに残っている本能としては、逃げるものを追いかける(オオカミは群れで狩りをします)とか、庭に入ってくるものに対してほえる(オオカミはなわばりの中に入ってくるものに対して警戒してほえかけます)など、いくつもあります。
ですから、イヌを飼うときは、ただかわいがるばかりではなく、イヌの本能(イヌの種類によって表れかたはさまざまです)をよく理解した上でしつけをする必要がありますね。