国語教育はどう変わるのか!?
1.大学入試制度改革で変わる学力の定義
2.実例!変わる中学・高校入試問題
3.国語の土台をつくる7つの方法
4.「ことばの知識」を理解するための1つの手段
5.学校の国語の学習時間は少ない!
6.なぜ17分で読めるお話を15時間勉強するのか?
7.文部科学省の見解
1.大学入試制度改革で変わる学力の定義
国語で問われる力とは、まず、多くのことを学ぶための、どのような種類の文章でも、いつの時代のことでも、どこの国の話でも、はじめて読んだ文章であっても、正しく理解できる力のことです。
学力テストでも、入学試験でも、その力が問われます。
そのために必要な日々の学習とは、たくさんの言葉を知ること、たくさんの文章を読んでおくことがとても大切になってきます。
これまで国語で問われるのは、物語・小説:「心情の理解」論説文:「事実と問題点」を読み取る力が中心でした。
ところが、ここ近年、求められる国語力が様変わりしてきました。
みなさんは、英語が4技能と言われる「聞く」「話す」「読む」「書く」力、つまり、会話も読み書きもできる学習に変わってきているのはご存じだと思います。
あまり意識されていませんが、これは英語に限ったことではなく、日本語=国語においても同様に教育の質の変化が求められてきているのです。
考えてみれば当たり前のことで、自分たちのふだん使っている「日本語」できちんとできないことが、外国語である「英語」を使ってできるようになるわけはないのです。
また、2020年の大学入試制度改革で、これまでとは異なる学力が求められるようになります。
今、文部科学省を中心に、具体的にどんな問題にしていくかが日々検討されていますが、「資料(表やグラフ)を読み取って、正しく分析し、それを表現する」力などが見られることになります。
たとえば、「本文を読み、あなた考えを100字以上、120字以内で書きなさい」という自由記述型の問題がその代表例です。
また、国語科の問題にかぎらず、「思考力」「判断力」「表現力」が求められるようになります。
2.実例!変わる中学・高校入試問題
さて、この大学入試制度改革にあわせて変わりつつある、中学入試問題、高校入試問題を少しご紹介します。
たとえば、次の問題をご覧になってください。
H28年度 神奈川県立中等教育学校入学者決定検査・適性検査Ⅱ
問1の(2)問題文をよーく読んでみてください。
〔資料〕の文章から「仮想水」という考え方を通して筆者が伝えたかったことは何かを書き、そのことと〔グラフ〕をふまえて、〔会話文〕の中の下線部「限られた地球の水資源をむだにしていた」について、あなたは今後の日々の食生活の中で具体的にどのようなことをするのが望ましいと思うか、全体で120字以上150字以内で書きましょう。
いかがでしょうか。
ほとんど問われていることは大学入試の自由記述型問題と同じです。
高校入試を見ても「表」「グラフ」「会話文」の理解・分析・判断と理解した内容を短時間で整然と記述できる表現力が問われています。
これらの問題はあきらかにこれまで問われていた「心情の理解」「意見の読み取り」のみとは異なります。
いわゆる学力の国際比較に使用されるPISA型と呼ばれ、「ゆとり世代」以降、日本の国際順位が下降傾向にあったことから、こうした問題が国内の試験にも適用されてきた背景があります。
とはいえ、こうした分析力・判断力・表現力というのは、実際にわれわれが社会活動をし、広く社会貢献していくうえで、実践的で有効な力です。
中学入試・高校入試・大学入試。
すべての年代で今後このような問題が増えていくのは間違いないでしょう。
3.国語の土台をつくる7つの方法
ここまでの入試問題の紹介を経て、次からは、「読書と国語力」について述べたいと思います。
現在行われている入学試験では、いろんな小説や論説文が出題され、読んだこともない文章の理解力が求められたり、「表」や「グラフ」、あるいは「会話文」を読み取って、分析し表現することが求めれることをご説明しました。
「国語は定期テストではそこそこ点数取れてるのに、実力テストや模擬テストでは点が取れないんだよな~」とか「漢字や知識でしか点が取れないから、やってもしょうがないよね」とか、国語は、数学や英語に費やす時間と同じようにがんばっても、なかなか点数の伸びにつながらないのは、「読んだことのある文章が出にくい」からです。
ということは、「読んだことがなくても、その場で理解できる土台をしっかり作っておけばよい」ということです。
そのためには、
1.ふだんから漢字の学習を怠らない。
2.漢字はただ暗記するのではなく、意味を理解する覚え方をする。
3.意味を覚えるだけではなく、文章の中で生きたことばとして理解する。
4.できるだけ語彙力を高める。
5.そのためには、知らないことばに出会ったら、放置しないで意味を考える。
6.意味を考えるときに、いちいち辞書に頼らず、文章の前後から意味を推し量る。
7.ふだんから長めの文章を短時間で読める集中力を高めておく。
というような文章の読み方をしておくことをお勧めします。
要約すると「漢字」と「ことばの知識」を増やす学習を国語の中心にする。
ということですね。
「面倒臭い」
「うざい」
「時間がない」
「楽しくない」
と思ってはいけません。
漢字練習はさておき、これらを一気にできる方法が「読書」なのです。
4.「ことばの知識」を理解するための1つの手段
ひと言で「ことばの知識」と書きましたが、世の中はさまざまな情報であふれています。
一般社会に関連するものだけでも、「親子」「兄弟(姉妹)」など血縁関係から「町内会」「学校」「クラブ活動」「会社」「サークル」「お稽古事」「市町村」「都道府県」「日本」「諸外国」など狭い範囲から広い範囲までの社会活動や、その営みの中で関連する「共存」「共生」「指示」「命令」「協力」「賛成」「反対」「社会保障」「少子高齢化」「政治」「経済」……。
数え上げたらきりがありません。
それぞれについて、常識とか、自分の感じ方、考え方、他人の感じ方・考え方とか、生きていくうえで理解の必要な情報や知識がうんざりするほどありますよね。
世の中には「知らない」「知らなかった」ではすまないことが身近でも数多く存在します。
情報化社会とは、実にやっかいです(笑)。
では、どうやって、この多種多様でややこしい情報や知識を理解し、それに対応していくか?
そのための1つの手段として、速く正確に読み取る力を高めることがあげられます。
人間には等しく与えられた時間があります。
ゲームに夢中になる時間も、まったくなくては楽しくないでしょう。
しかし、残念ながら与えられている勉強時間だけでは、このようにうんざりするほどの情報を理解するだけの「ことばの知識」は得られないのです。
効率よく、短時間でより多くの情報に触れることが必要です。
なぜなら、多岐にわたる情報の理解力を高める目的としての国語の学習時間は、圧倒的に少ないからです。
5.学校の国語の授業時間は少ない!
次は、文部科学省が「読書と国語力の関係をどのように表現しているか?」ということも紹介しながら、国語の学習時間がいかに少ないかということを説明します。
ちょっと難しい内容に触れていますが、がんばって最後まで読んでください。
前で「多岐にわたる情報の理解力を高める目的としての国語の学習時間は、圧倒的に少ない」と述べました。
では、実際に学校教育ではどれくらいの時間が当てられているのか確認してみましょう。
まずは小学校
各教科の 授業時数
区分 第1学年/2学年/3学年/4学年/5学年/6学年
国語 306/315/245/245/175/175
社会 ●/●/70/90/100/105
算数 136/175/175/175/175/175
理科 ●/●/90/105/105/105
続いて中学校
各教科の 授業時数
区分 第1学年/2学年/3学年
国語 140/140/105
社会 105/105/140
数学 140/105/140
理科 105/140/140
外国語 140/140/140
6.なぜ17分で読めるお話を15時間勉強するのか?
小学校に入学すると「ひらがな」「カタカナ」を、時間をかけて学習しますので、たっぷりと時間が取られています。
しかし、学年が上がり、他の教科学習時間が増えるにしたがい、国語の時間はどんどん減っていますね?
中学生にもなると、さらに国語の学習時間は減り、中3にもなると、週2時間程度にまで減ってしまいます。
他の勉強が増えると、なにかを減らさねばならないのは当然のことです。
しかも、他の教科も「日本語で学習する」わけですから、「国語」の時間だけではなく、わたしたちは「日本語」を学んでいるとも言えます。
しかし、児童・生徒であるみなさんは、そのようなことを意識して、様々な教科の勉強に取り組んでいますか?
他の教科の成績が伸びると同時に国語の成績も伸びていくものなのでしょうか?
学習の目的そのものが異なるわけですから、そううまくはいかないですよね?
それに、たとえば、小4で学習する「ごんぎつね」。
黙読するだけなら、17分で読み切れるこのお話を、学校ではなんと10時間~15時間もじっくり時間をかけて勉強します。
たった十数ページの物語に10時間以上をかけるのです!
名作中の名作ですから、すべての児童が内容を理解してくれる必要があるのも確かです。
しかし、これでは、新美南吉には、ほかにもたくさんの名作があるのに、その他の作品を読む時間は、残念ながら確保することはできないでしょう。
たくさんのお話に触れた方が楽しいし、もっとほかの本も読んでみたいという気持ちになるのではないでしょうか?
7.文部科学省の見解
最後に文科省発表の記事を紹介します。
実は、文部科学省が、H16年2月に「これから求められる国語力について」と題した、文化審議会の見解を公表しています。
その中で、「国語教育」については、<国語教育は社会全体の課題>として、以下の通り述べています。
国語教育に関し,特に重要な役割を担うのは学校教育であるが,その中でも小学校段階における国語教育は極めて重要である。しかし,言葉にかかわる国語教育の問題は学校教育だけに限定できるものではない。家庭や地域社会における言語環境が,子供たちの国語力に大きな影響を及ぼしていることに配慮し,学校教育,家庭教育,社会教育などを通じて,国語教育を社会全体の課題としてとらえていく必要がある。
また、「国語力を身に付けるための国語教育の在り方」の中で
<「自ら本に手を伸ばす子供」を育てる>の項目の中では
国語教育の中で,「自ら本に手を伸ばす子供」を育てることを考える必要がある。読書は,国語力を形成している「考える力」「感じる力」「想像する 力」「表す力」や「国語の知識」のいずれにもかかわり,これらの力を育てる上で中核となるものである。特に,すべての活動の基盤ともなる「教養・価値観・ 感性等」を生涯を通じて身に付けていくために極めて重要なものである。
とも述べています。
国語力を伸ばすには、「学校教育だけに限定できるものではない」のであって、「読書は、国語教育の中核をとなるもの」であり、「自ら本に手を伸ばす子供」を育てることが必要だということのなのです。