2024年度入試の試験問題はどのような傾向があったのでしょうか。
Qゼミ中学部入試分析室のスタッフが集合し、一斉に各教科の学力検査問題を解き、その特徴をまとめました。
中2生以下、これから高校受験をするみなさんの参考になればと思います。
英語
ポイント3つ
- リスニングは話題をおおまかに理解する
- 語彙の対策は教科書以外も必要
- 読解分野の時間配分に注意
分析担当:石井 直樹先生
<総評>
【リスニング】
出題形式、難易度ともに過去2年とほぼ同じでした。英文が2回繰り返されることを上手に利用して、1回目で対話文やメッセージ全体のトピックをつかみ、2回目で解答につながるキーワードを聞き取るといった解き方を意識すると、落ち着いて対処できるでしょう。
【語彙・文法:問2~4】
出題形式に変更はありませんでしたが、難度が少し上がりました。問2(ウ)のofficial、successful、問3(エ)のagainstなどは教科書に出ていない、または3年間で1回しか出ていない単語です。語彙については、教科書以外での対策が今後必要になるでしょう。問4(ウ)の整序問題は、文後半の<are on that shelf over there>から主語がvisitorsではなくshoesであることを判断する必要があり、解答にたどり着くまでに少し時間がかかったかもしれません。
【英作文:問5】
語彙・文法とは対照的にHow many timesで始め現在完了を用いる単純な英作文で、ここ数年で最も簡単な問題でした。
【読解分野:問6~問8】
全体では比較的解きやすい設問でしたが、最も注目するべきことは問7の分量の増加傾向です。
<22年度⇒23年度⇒今年の語数>
問6:850語⇒720語⇒680語
問7:360語⇒490語⇒550語
問8:790語⇒770語⇒830語
これからの入試対策では、問7の情報量が少なくないことを前提として問6~問8の時間配分を計画する必要があるでしょう。
次に、図表に関する設問は問8(ア)のように、文章に書かれた内容を示すグラフを選択する形式が通例ですが、今年の問6(ア)は2つのグラフが示す内容が書かれた文を選択する形式でした。これまでの<言語⇒図表>に加え、<図表⇒言語>の変換もできるように対策しましょう。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
リスニングは対話文やスピーチの全体的なトピックを理解する訓練を数多くこなすことが大切です。単語に関する設問は得点源にしたいところですが、語彙のレベルが今後上がる可能性があり、教科書だけでは対応が難しくなるかもしれません。これらを考えると、中学3年間を通じて継続的に英検を受験することが最も有効な対策になります。学校の授業や教科書の学習を大切にしつつ、入試対策として積極的に英検にチャレンジしてください!
国語
ポイント3つ
- 受験生を悩ます選択肢→選択肢読解力と絞り込み力の養成を
- 受験生を悩ます文章→本文読解力の養成を
- 非言語読解問題の消滅
分析担当:中村 彰之先生
<総評>
2022年、約19,047字、2023年、約17,657字、そして2024年は、約18,381字。
文字数が多いという傾向に変更なし。
ただ、文字数が多くとも読みやすい文章であればたやすく処理が可能となる。
しかしながら、文字数が多くて読むのに時間がかかるだけでなく、内容を把握するのも、選択するのも苦労しただろう。
問2の小説。青森の方言が特徴の文章。登場人物は少なく、時間的な交差もないのでストーリーを追うのはそこまで大変ではない。親子の心情理解を正面から問う問題。選択肢がよく練られており、何度も読み返してやっと絞り込めた、という受験生も少なくなかったろう。
問3の論説文。内容は、哲学的・言語学的・社会学的なものであった。ロラン・バルトやミハイル・バフチンなどの引用もあり、本格的な論説文である。何度読んでも全然頭に入ってこない、という印象をもった受験生も少なからずいただろう。ただ、本文の完全な理解がなくても、選択肢さえ絞り込めればいいのが入試問題である。だが、選択肢がよく練られているので、かなりの程度本文を深く理解する必要があっただろう。
問4の古文。決して難解な本文ではない。ストーリーも追いやすい。これもやはり、選択肢の読解がポイントとなる。
問5の記述。これまで出題のあった非言語読解(グラフ・表の読み取り)がなくなった。素材文章に社会学者の大澤真幸のものが使用された。「偶有性」が記述の指定ワード。社会学ではお馴染みではあるメジャーな言葉だが、「偶有性」という言葉を見知っていた受験生がいかほどいるだろうか。もちろん、事前に知っていなくても問題は解ける。しかしながら、初めて接する難しそうな言葉や、独特の文章表現に受験生は面食らったことだろう。
結論として、選択肢が洗練されて、高い選択肢読解力と、絞り込み力が要求されるよき入試問題となった。
また、文章も骨のあるものを選定していて、速く・正確に・深く読むことが求められている。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
・選択肢読解力・絞り込み力・本文読解力
この三つの力が要求されるが、この三つの力は全く異なる性質のもので、養成方法も全く違う。
まず今日からは、根拠のない選択をしないこと。
具体的には、なぜその選択肢を消したのか?これが明確に言えるようにすることだ。3つの選択肢を正しく消せればそれが正解である。
数学
ポイント3つ
- 昨年より基礎問題の重要度が上がった
- 昨年と同様に思考力・総合力を必要とする問題が出題された
- 1年生から3年生までに習う単元が偏りなく出題されていた
分析担当:馬場 翔吾先生
<総評>
出題傾向は昨年とほとんど同じであったが、問2の小問が1問増え、問6の小問が1つ減った。そのため基礎をしっかりと身に着けていれば、問1~2までの基礎問題で点数を多く獲得できる内容となっていた(仮に問1~2まで全問正解できた場合、100点満点中39点に相当する)。
問1、2については例年と同じ傾向の出題内容であり、昨年と比較するとそこまで複雑な計算を要する問題は出題されていなかった。
次に問3は昨年と同様に(イ)は四分位範囲・箱ひげ図の問題が出題された。また昨年は(ウ)で速さを求め、さらにそれをグラフに表して解く思考力を求められる問題が出題されたが、今年(エ)で出題された食塩水の問題は、公式を当てはめれば解ける内容だった。
問4(ア)・(イ)は例年通りの出題内容で、計算自体はそこまで複雑ではなかった。ただし(ウ)は思考力を必要とする問題であり、難易度は高かった。
また問5はさいころの目の約数のカードを取り除くという内容の問題であり、思考力を必要とするが、操作内容自体は昨年より複雑ではなかった。
問6(ア)は三角錐の体積を求める基本問題だった。しかし(イ)は与えられた展開図から自分で展開図を書き直し、さらに三角形の面積から高さを逆算するなど、いくつかの単元が複合したような内容だった。全体でみると1年生から3年生までに習う単元が偏りなく出題されていた。基本問題の重要性は昨年より大きくなったが、思考力を求められる問題も、例年通り出題されていたため、総合力を問われる内容であった。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
今年は昨年より基本問題が多く出題されましたが、数学の公立入試は毎年総合力や思考力を求められる問題が出題されています。そのためまず基本公式については、反復練習を行ってしっかりと定着させましょう。また問題を解くときに、「どういった解き方をすればいいのか」、「問題で与えられた条件はどういう言い換えができるか」を考えながら解くことで、より高い思考力を養っていきましょう。
理科
ポイント3つ
- 物理・化学・生物・地学
各25点ずつの配点 - 全体的な難易度は依然高め
- 完答問題が無くなった
分析担当:齊藤 卓也先生
<総評>
依然として難易度は高い印象を受けます。前年同様に「知っている」だけでは解けない問題が多く、問題文をしっかり読み、何を問われているかを考える必要があります。
また、前年まであった完答問題がなくなり、小問それぞれに配点が設定されました。この影響で全体的な平均点は上がる可能性が高いでしょう。
問題を見てみると、問1の(ア)プリズムを使った光の屈折、(イ)輪軸などはあまり見慣れない問題なので戸惑った生徒も多かったことでしょう。
問4の(ア)では地層の成り立ちを考察する問題でしたが、堆積物の粒の大きさから堆積した順番を考え、しゅう曲の仕方までを考えなければいけない難易度のかなり高い問題でした。
問5~8は電流と磁界の融合問題・発行ダイオード、イオンと中和、遺伝、前線と天気という構成でしたが、難易度は前年とそこまで変わらないでしょう。ただし、実験や観察内容の設定が複雑でしっかり読まないといけない問題が多いので、読んで理解するということに慣れていない場合は時間がかかってしまいます。
また、問7では遺伝子の組み合わせを表を使って調べる問題があり、実際に書いて調べて答えを出す必要があるので時間がかかります。
問5~8の問題で点を取るには、普段から実験や観察に関する問題に触れて問題文を読んで理解すること、そして実際に手を動かして調べてみるという事に慣れておく必要があります。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
近年の理科では単純な知識を問う問題、いわゆる「一問一答」という形式の問題は出題されません。むしろそのレベルの問題は解けて当たり前になります。今持っている知識をどう問題に生かすかという「思考力」が必要になりますので、前提となる基礎知識がまだ定着していない場合はまずそちらを固めましょう。その後、過去問や問題集などを通して実験・観察に関する文章題を解き、問題文を読み解く練習、そしてその知識をどう使うのかを考える練習をしましょう。
社会
ポイント3つ
- 知識の単純暗記だけで行けるとは思わないこと。論理的思考が必要。
- 教科書内容の基本的知識はしっかり押さえておくこと(特に歴史・公民)。
- 統計資料を読んで、地理・歴史・公民の融合問題に対応しよう。
分析担当:高橋 秀幸先生
<総評>
■問1世界地理 15点
(オ)XとYの資料のうち、どちらが「地域の結びつき」に近いか?「貿易」を表すYになり、a「APEC」と正解できるでしょう。読解力の問題と言えます。
■問2日本地理 14点
(エ)の「昼夜間人口比率」のグラフの読み取りでは、1つのグラフで「昼間人口」の増減とその理由、「夜間人口」の増減とその理由、「昼夜間人口比率」の増減とその原因を読み取る必要があります。グラフを読む力が必要ですね。
■問3・問4 歴史 29点
資料、史料がいつの時代のもので、選択肢に出てくる語句がいつの時代のものか、基本知識は時代別につかんでおきましょう。年代の記憶をしておくと、短時間で解答できます。
■問5公民 14点 ※昨年15点
政治よりも経済に比重がおかれています。為替相場や景気変動、金融など、基本的な知識で対処できるが、円高・円安の影響や誰から誰にお金を貸すとどうなるのか、景気が悪いときに政府や日本銀行はどうするのかなど人に説明できるくらいに自分の頭で整理しよう。
■問6公民 15点 ※昨年13点
(エ)「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」という、初めて見る法律の条文を読んで、誰の人権を尊重するのか、公共の福祉はどう解釈すべきなのかをきく問題。国会・内閣・裁判所の問題は(ウ)のみ。
■問7地理・歴史・公民融合問題
資料を読んで、計算が必要であれば計算し、知識が必要であれば知識を動員して解答する柔軟さが必要。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
歴史の年代暗記や世界の気候区や日本の気候区などをふくめ基本的な知識は絶対に必要ですが、その知識を「知っている」では足りず、なぜそうなるかを自分なりに「理解している」必要があります。また、知識を応用するための「思考力」が必要になります。統計や資料を使った問題を、学校の定期テストなどで数多く触れ、その場で考えて解く練習をしましょう。神奈川県だけでなく、全国の入試問題を解くのも勉強になります。