2023年度入試はどうだったのでしょうか。
Qゼミ中学部入試分析室のスタッフが集合し、一斉に各教科の学力検査問題を解き、その特徴をまとめました。
中2生以下、これから高校受験をするみなさんの参考になればと思います。
英語
ポイント3つ
- 問1~問5はほぼ前年と同じ
- 問6~問8は情報を素早く整理する能力が必要
- 複雑な文や語数の多い文が多用される傾向は今後も継続
分析担当:石井 直樹先生
<総評>
出題形式や全体の分量は昨年と同じだが、目立った変化がいくつかあった。注目すべき点をを以下に整理する。
【リスニング】
難易度はほぼ昨年通り。一昨年の低正答率の反省もあり、無難な問題構成が続いている。一方で、I wish…や現在完了進行形など高校からの移行文法が、リスニング分野に登場していることは意識しておきたい。
【語彙・文法・英作文:問2~5】
出題形式に変更はなく難易度もほぼ例年通りだったが、問3、4、5と立て続けに間接疑問文が出題されたことは注目したい。過去の入試で正答率が低い傾向(例:2017年の英作文では10.6%)にある間接疑問文を重複出題するということは、複雑な構造の文が入試で多用される傾向の表れであり、読んで理解するだけでなく複雑な文を作文できる力を明確に求めている。
【読解分野:問6~問8】
問6の題材が過去4年間続いた環境系から変わったことは大きな変化である。今後も多様なトピックが扱われることを前提として準備したい。問7では例年350語前後の語数が500語弱と大幅に増加した。問6の減少分(850語⇒720語)と見ることもできるが、問7の情報量が少なくないことを前提として、問6~問8の時間配分を計画する必要がある。読解分野の出題意図は、語彙や文法の暗記知識よりも与えられた情報を整理するところにある。例えば、問6の設問(ア)では本文のThe number of farmers became smaller, and the percentage of the farmers who were 60 years old and older than 60 years old became larger.を読むと同時に、階段を上る棒グラフと階段を下る棒グラフの組み合わせをイメージできることが大切である。神奈川県の入試長文は600語~800語という語数の多さが特徴的だが、昨年から1文を構成する語数も多くなり、上述の間接疑問文に加えて、後置修飾、名詞節のthatなどの文構造が複雑な文が増えている。具体例として、問8(イ)のBut I don’t think Japanese people can stop eating food made from wheat flour because their eating habits have changed a lot, and many Japanese people eat food made from wheat flour. は補充語句を含めて32語になる。30語程度の1文をスラスラ読めるための訓練を心がけたい。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
リスニングは教科書の本文を聞く、英検3級のリスニング問題を繰り返し解くなど、日頃から英語の音声に慣れることが対策になります。語彙・文法は教科書レベルの出題なので、教科書の内容を十分に理解しておきましょう。動詞がいくつも使われる複雑な文を速く正確に読む秘訣は、英語の語順のまま理解することです。目的語が動詞の後ろにあり、名詞を修飾する語句がその名詞の後ろにある英語の語順に慣れて、日本語の語順で読み返さないことを意識するといいでしょう。この訓練には音読が最適です。
国語
ポイント3つ
- 前年の傾向を基本踏襲している
- 特徴としては基本を問う問題が多い
- 昨年の約19,047文字→約17,657文字へ約1500文字減った
分析担当:中村 彰之先生
<総評>
前年の傾向を踏襲した問題構成である。内容として難解な問題は基本的に見られず、基本を問う問題となっている。
問2の文学的文章は、読みやすく平易であるが、登場人物の内、二人が「先生」と認識可能である文章で、多少の注意を要する。問3は認識論にまつわる論説文である。メディアの偏向報道や世間の常識へ真っ向から疑問を投げかける内容である。受験生によっては俄かに受け入れられず、設問に解答するレベルまでの理解をするのに多少の時間を要したかもしれない。
問4の古文は、「平家物語」からの出題であった。同時代の仏教説話の文章と比べると、はるかに読みやすく古典文法の知識もほとんど必要ないため得点源といえる。
問5のグラフ・資料問題は「自然との共生」「林野管理の今後」がテーマであった。資料やグラフを掲載し、35文字程度の記述問題を課してはいるが、実は、提示された条件だけ見ても解答できてしまう。共通テストに見受けられるような、資料に対する高い非言語読解能力を問う問題ではないので、得点源として焦らず取り組んで欲しい問題である。
総文字数は約17,657文字。文庫本1冊が約10万文字、「人間失格」が75,036文字、「陰翳礼讃」が32,189文字、「走れメロス」が10,882文字、「羅生門」が6,724文字なので、文章を読み慣れている人は多く感じないかもしれない。
平均点は昨年並みかやや上がるのではないかと見込まれる。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
神奈川県の入試問題の特徴として、難解な文章を用いて重厚な設問を提供するよりも、選択肢の工夫によって惑わしたり、ひっかけたりする傾向がある。そうしたひっかけに振り回されないためにも多様なレベルの文章を正確に速読できるように、時間を測りながら訓練して欲しい。また、筆者と出題者、その両者の意図を読み解く鍛錬も積む必要がある。漢字は、準2級レベルまでが必要である。学習の際には、しっかり文字で書き出すのがおすすめ。
数学
ポイント3つ
- 全体的に見て出題傾向は昨年と比べて大きな変更点はなし
- 昨年同様に思考力を求められる問題が出題されていた
- 過去の入試問題の類題が出題されていた
分析担当:馬場 翔吾先生
<総評>
全体的に見ると出題傾向は昨年と比べ大きな変更点はなかった。
昨年同様に思考力を求められる問題が出題されており、中には過去の入試問題の類題も出題された。各問の配点は昨年とほぼ同じだった。問3(イ)について昨年は(ⅰ)・ (ⅱ)が完答で5点だったのに対し、今年はそれぞれ2点・3点となっていたため、やや点数を取りやすいものになっていた。
問1、2については例年と同じような出題内容・難易度だったため、ここで点数を確保したい。次に問3(ア)は相似や円周角を活用する問題であり、(イ)は四分位範囲と箱ひげ図の問題だった。(ウ)は問題文からBさんの速さを求め、さらにそれをグラフに表して解くため、思考力を求められる問題だった。
問4(ア)・(イ)は例年通りだったため、ここを得点源としたい。(ウ)は2016年度の類題であったが、複雑な計算を必要とするため、難易度が高い問題といえる。
また問5(ア)・(イ)はともにブロックの操作が複雑であったためパターンを数え上げることに時間がかかる問題だった。問6(ア)・(イ)はこれまでの入試問題でも出題された円すいの表面積・空間内の線分の長さを求める問題だった。しかし(ウ)は側面の展開図を書いた後、∠AOE=60°という条件から∠ACE=120°にいかに気づくことができるかという思考力を求められる問題だったため、難易度の高い問題だった。全体でみると1年生から3年生までに習う単元が満遍なく出題されており、昨年と同じように思考力を求められる問題が出題されていたため、対策としては入試の過去問や教科書の章末問題など、幅広い問題を解いておきたい。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
数学の公立入試は総合力や思考力を求められる問題が出題されます。そのため1年生から3年生までに習う単元について、偏りが無いように満遍なく学習を行いましょう。またその際、「なぜ模範解答はその解き方をするのか」、「自分の考えた解き方と模範解答はどのように違うのか」を考えながら解くと思考力をより高めることができます。
理科
ポイント3つ
- 生物・化学・物理・地学、各25点ずつのバランス型
- 中1・2単元だけで79点分の出題
- 「知っている」ではなく「理解している」が大事
分析担当:齊藤 卓也先生
<総評>
全体的な問題構成は例年通り。思考力が試される問題が多いのも同様と言えます。中学3年生の単元から多く出題された昨年と違い、今年は中学1・2年生の単元から79点分の出題がありました。中学1・2年の復習をしっかりしていると点数が取りやすかったと言えるでしょう。
問1~4は小問集合ですが、磁石を使った作用・反作用のようなあまり見慣れない問題や、問題文をしっかり読まないと選択肢を間違ってしまう問題などが出題されています。問5は電磁気と力学の融合問題ですが、最後の(エ)は答えを文字式の中から選択する問題でした。電気エネルギーと位置エネルギーの計算方法をしっかり理解していないと答えられない問題といえます。問6は酸化と還元の問題。還元→酸素が奪われる・酸化→酸素と結びつくという2つの現象が同時に起こることの理解が重要になります。問7は植物の蒸散の問題です。パッと見よくある問題のように見えますが、表のデータから何がわかるのかをその場で考える思考力を問う問題となっています。知識として頭の中に入っていても、それがそのまま答えと結びつかないため間違ってしまった方も多かったのではないかと思われます。問8は地層の問題。こちらは特にひねりはなく、教科書の内容がしっかり頭に入っていれば解けるでしょう。
全体的に「知っている」では解くことが難しく、それぞれの事象についてなぜそうなるのかを「理解している」こと。また、問題から読み取ったことをその場で考える思考力が高得点のカギとなったと言えるでしょう。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
理科で高得点を取るためには基本的な知識は絶対に必要ですが、その知識を「知っている」では足りません。なぜそのような考え方になるかを根本から「理解している」必要があります。また、知識を応用するための「思考力」が必要になります。表やデータを使った問題を早い段階から数多く触れ、その場で考えて解く練習をしましょう。3年生になってからではなく、今の内からコツコツ準備をしておくことが肝心です。
社会
ポイント3つ
- 昨年、一昨年と比べると難易度はやや難化か。
- 教科書内容はもちろん、資料を活用しながらの幅広い知識が必要。
- 昨年から姿を消した記述問題は、今年も出題なし。
分析担当:中野 亮輔先生
<総評>
問1 世界地理 15点
(イ)日付変更線に関する知識を問う問題が出題された。経線に対する時差の感覚(東が早く、西が遅いなど)が必要。(エ)ブラジルの歴史的背景が問われる地歴融合問題。植民地関連の基本的な知識があれば、難なく正答できた。
問2 日本地理 14点 ※(エ)のみ世界の気候
(ア)(イ)(ウ)地形図の縮尺計算、人口ピラミッドの読み取り、人口密度の算出方法など、教科書レベルの知識で解答可能。(エ)の気候問題に関しては雨温図ではなく文章で説明された気候帯を選択する問題が出題された。
問3 古代から近世にかけての歴史 15点 ※昨年14点
古代(弥生~平安)中世(平安~戦国時代)近世(安土桃山~江戸)この時代区分が分かっている、かつ関連したできごとや資料から考察する力が鍵。
問4 近代以降の歴史 15点
問3同様、できごとの順番のみならず時代背景を知っていないと正確に選べない。資料をすみずみまで読むことも必須。
問5 経済・国際 14点 ※昨年16点
為替相場や景気変動など、基本的な知識で対処できる問題がある反面、、(オ)では比較的複雑な資料を8択問題とし知識と判断力を要する問題となっていた。
問6 政治 15点 ※昨年13点
(ア)伝統文化の問題で、文化史が出題された。難易度は高くないので冷静に対処。
問7 地理・歴史・公民融合問題
沖縄県の出題。(ア)で「常緑広葉樹」から「マングローブ」を連想させたり、(エ)では国内総生産や核兵器保有国の知識が問われたりと教科書外の一般教養が必要なため、普段からのニュースや新聞のチェックが必要と感じる。
<これから受験をする生徒さんへ ずばり対策方法>
知識の必要のない資料問題は絶対に落とさないよう、資料を短時間で読み取る訓練をしておきましょう。それに加え、資料の情報を知識と結びつけることも必要なので、教科書やワーク、新聞やニュースなど、早いうちからの対策が大切です。神奈川の過去問のみならず、全国の過去問演習も非常に効果的です。